【いない子】 昔々あるところに、一人部屋にこもり絵を描き続けている女の子がいました。 女の子には名前がありません。 誰に呼ばれることもなかったのでいつのまにか消えてしまったのです。 誰かの話題にのぼる時には、“いない子”と言われていました。 “いない子”にはお友達もいませんでした。先月までは学校に通っていましたが、 “いない子”は学校でもやはり“いない子”で、 誰一人として、気をとめることもありませんでした。 “いない子”はそのうち、大勢の中で気配を消すことを覚えました。 そうして誰と言葉を交わすこともなく、ただじっと様子をうかがっていましたが、 そのうち学校に行くのも止めました。 “いない子”は泣きません。もっと正確にいうと…泣き方が分からないのです。 “いない子”がもっともっと小さかった時に泣くことはとてもいけないことなのだと 学習してからというもの、泣くことをやめ、 そうしているうちに、泣くこと自体が、分からなくなりました。 心の中は…決して淋しくない訳ではないのです。 だけれど、その気持ちをどこにやればいいのかということも、 “いない子”には分からなかったのでした。 それでも“いない子”はスケッチブックとクレヨンがあれば十分でした。 “いない子”は自分の“お城”でお話を絵にして描き続けていたのですから。 “いない子”の描く物語の中には決まって登場する常連さん達がいました。 醜いけれど心の優しいレモンさん。 美しいけれど決して信じてはいけないピーチさん。 正義の味方の左利きさん。口やかましいホクロさん・・・ そうした彼らが“いない子”の前で様々な物語を広げてくれていたのです。 それは毎日毎日続きました。 “いない子”はほとんどご飯も食べません。 特に誰かが周りにいると一口も食べれません。 時々お勝手に行っては何かの残りものを夕方の、 お母さんやお兄さん達ががお買い物に出かけている間などに 少し口にするだけでした。だからひょろひょろのやせっぽっちです。 そうそう、“いない子”にはお兄さん達が3人いました。 お父さんとお母さんはそのお兄さん達のことと自分達のことで とても忙しそうで特に“いない子”の事を気にすることもありませんでした。 そうして誰と会うこともとくになく、ひたすら描き続け、 物語を繰り広げることで“いない子”は毎日を飲み込んでいました。 そして“いない子”はいつの日か大人になりました。 久しぶりに取り出したスケッチブック。 残ったぼろぼろのクレヨンで“いない子”が再び描き始めたのは 数週間前の出来事でしょうか。 “いない子”はすっかり大きくなり『大学生』になっていました。 周りには沢山の人達がいます。 だけれど“いない子”はどうしても周りの人達と 上手く関わりをもつことが出来ないままでいました。 誰かに助けてと言われればいつでもぼろぼろのくたくたの やぶれたぞうきんの様になるまで朝から晩まで動き回りました。 でも終いには“いない子”自身、身体を壊し動けなくなり、 そのうち助けてと言っていた人達も去って行く。 そんな風にして心も身体も沢山の傷を負っていきましたが、 幾度も幾度も同じ事を繰り返していたのでした。 そして人が去る度“いない子”は、全て自分が悪いのだと責めました。 だけれど“いない子”は誰かが“いない子”に助けを求めてくると、 その時ばかりはそこに存在していいと感じられたのでした。 生きているとさえ感じました。でも、すぐにまた、ぼろぼろのくたくたになり、 何もかもが悪い方向へとぐるぐる渦を巻いていきます。 それこそ何一つ、誰にとっても良いことはありませんでした。 そうした事を繰り返していたある日、“いない子”はパタリと 何をすることもなくなってしまいました。 『ワタシハイナイコダモノ…』と、無意識に飲み込もうとしていました。 全て自分が悪いのだからと。 時は静かにただただ流れていきました。 どのくらい経ったのでしょうか…… お日様とお月様は何度も何度もいったりきたりしていました。 そんなある日、“いない子”は急に這い上がると、 あの頃のスケッチブックとクレヨンをようやっと取り出したのでした。 “いない子”は描き続けました。それは火がついた様に、ただただ無心で描き続けました。 そんなある日、紙の上では新しく生まれた“友達”が座っていました。 その“友達”は頭から足先まで、まっしろで、つるつるのはげ坊主、 だけれどピンク色のワンピースと赤い靴を履いていて 身なりは可愛いといった風でした。 なんだか淋しげな表情をしているのですが、それでもとても滑稽味があり、 まるでサーカスの一員のピエロの様です。 “いない子”は描くその手を止め、その“友達”にふっと目をやると、 そっと引き出しの奥深くにしまいました。 そして明くる日・・・ “いない子”が真っ白な紙に何かを描き始めようとしていると、 なにやら頭の上で、何かが動く気配を感じました。 それは、あの、新しい【友達】の“白い子”でした。 “いない子”には顔がありませんでした。 もうずっと前に失ってしまったのです。 なので驚くことも騒ぎ出すこともなく、ただじーっとその“白い子”を見つめていました。 白い子の後ろには真っ白な扉がどこからともなく在りました。 しばらくすると“白い子”はその扉を開け、すたすたと歩いていってしまいました。 “いない子”は同じ様にその扉を開け、“白い子”の後をすーっとついていきました・・・。 つづく。 その後のこと(つづくの後のこと)を中心に写真に撮っていきたいと 作り始めた今回の作品でした。 もうすぐ完成、間近。 いない子と白い子は何処に行くのか? 来月号に続(…かない!) けど、そういう話がベースにあるモノなのでした。 ※ 上の写真は関係ない、テストショットだったヤツ 透子拝
by bluenoblueno
| 2008-11-20 16:39
| Photo: Non-genre
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